ブルーオーシャンセレモニーと曹洞宗僧侶の太田宏人さんが主催する「お坊さんのための海洋散骨体験クルーズ」を取材してきました。ブルーオーシャンセレモニーの乗船取材、異なる宗派のお坊さん11名と船に乗って東京湾で散骨クルーズ。どれも初めてのことでいつも以上に緊張した取材でした。散骨・海洋葬には「墓じまい」が大きくかかわっていて、その「墓じまい」はお寺にとって収入を失う「檀家離れ」につながります。(詳しくは「樹木葬ネット」の墓じまいについてをご覧ください。)僧侶のみなさんが散骨・海洋葬についてどのように考えていらっしゃるのか、お話を聞いてきました。
待ち合わせの時間には若干余裕を見て「朝潮小型船乗り場」に到着したつもりでしたが、船内にはすでに数名のお坊さんたちが着席されていました。朝潮小型船乗場から船に乗るのは本日が初めてです。場所も勝どき駅から徒歩約5分でアクセスも良いです。「晴海アイランドトリトンスクエア」の通り向かいといえば分りやすいでしょうか。乗船する船は大型のクルーザー「レノン号」、乗船口には故人の名前が書かれたプレートが飾られています。船長に挨拶をして船内へ。少し重い雰囲気が漂う船内には総勢11名のお坊さんたち。みなさん法衣をまとっていて、なんだかお寺が船に引っ越してきたような感じです。
出航前に船長から今日の天候や波の状況について分かりやすく説明してくれます。これなら初めて船に乗る方も安心できます。次にブルーオーシャンセレモニー村田さんから船内の案内、本日の流れの説明があり、その間に船はゆっくりと動き出します。自己紹介では僧侶のみなさんが今回参加をした理由を話してくれました。すでに散骨を経験している方もいましたが、ほとんどの方が「どのようなものなのか体験しておきたい」ということで参加を決めたようです。村田さんの話ではこのような場所にこれだけ多くの僧侶の方がしかも宗派を超えて集まることはほとんどないようです。自己紹介のあと、水溶性の紙で折られた「おくり鳩」に各自がメッセージを書きました。
ブルーオーシャンセレモニーでは「海洋家族葬プラン」など船上でお別れ会をするプランの場合、散骨ポイント到着まで波のない京浜運河を航行します。散骨・海洋葬に参加する方は船に乗りなれているとは限りません。遺族に配慮したルート設定は、長年東京湾でのクルージングをおこなっている船長の経験が活きています。船内では模擬追善供養をおこない、ひとりずつ献花を行いました。船はゆっくりと進み、テーブルの上の飲み物もかすかに揺れる程度で、普段通りの会話が聞き取れるくらいのエンジン音です。模擬追善供養に続いて、村田さんから海洋散骨の説明があり、質疑応答をおこないました。みなさん積極的に話を聞いて、質問をしていました。
船が散骨ポイントに到着しました。順番に後部デッキに進み散骨をおこないます。水溶性の袋に小分けされた遺骨(今回は食塩)とメッセージを書き添えたおくり鳩を一緒に海へ還して献花をします。今回は仏式での散骨になるので全員が散骨をおこなう間に読経がおこなわれました。私にとっては初めての経験です。雲間から差す陽光、海面に漂う花びら、デッキに立ち読経する僧侶、波の音と読経の音が混ざり合う幻想的な風景が印象的です。
散骨が終了後、2Fのスカイデッキスカイデッキで圧巻の「合同法要」にて「合同法要」がおこなわれました。先ほどは参加したお坊さんたちが参列者の役で散骨をおこないましたが、今度は11人全員が僧侶としてこれまで海に還っていった方たちへの供養をおこないました。11人のお坊さんが唱えるお経はさすがに迫力があります。それが寺院の中ではなく、東京湾の船の上でしかも宗派が違うお坊さんたちによっておこなわれていると考えると、仏教に(というか宗教全般に)対して予備知識の乏しい私にとっても貴重なことなのだと実感できました。
合同法要が終わると最後に10回鐘を鳴らす「十点鐘」と黙とうが捧げられます。「十点鐘」は通常の散骨でもおこなわれるもので、これも初めての経験でした。ゆっくりとした間隔で響く鐘の音が遺族の心にもきっと響くことでしょう。帰りは桟橋に戻るまでの間、各自が感想を発表して意見交換をしました。すでに依頼を受けて散骨をおこなったことがあるお坊さんのお話しは興味深く、地方においてはまだまだ散骨・海洋葬への理解がなされていないことを再認識しました。また参列者の立場から見ると、散骨を終えて帰るまでの時間が寂しいという感想や体験はしてみたが海洋散骨を自分の檀家には積極的に提案はできないという意見もありました。体験クルーズを終えて、僧侶のみなさんはそれぞれの考え方を確認していました。
最後に太田さんから「散骨は仏教に相反するものではない。これから散骨をする方に対して仏教は何ができるのか考えていきたい。将来的には海洋散骨をするときはお坊さんを一緒に乗船させるものだという慣習が根付く世の中になっても良いのではないか。」という話があり、これからの供養の在り方を前向きに考えていく姿勢が感じられました。
仏教に限らず、宗教は人の心の拠り所となり、生きる力を与えてくれるものだと思います。私たち日本人は宗教に対して寛容で、年中行事もさまざまな宗教が入り混じっています。とはいえ葬儀、供養において仏教はかかわりが深い宗教です。散骨・海洋葬についても否定し合うのではなく、故人を読経とともに海に還すというスタイルが故人や遺族にとって一つの選択肢になって欲しい。今回の取材でそう思うようになりました。
今回はブルーオーシャンセレモニー村田社長の尽力で実現した企画ですが、ぜひ第2回も企画していただきたいです。今度は「お坊さんと一緒に乗船する海洋散骨体験クルーズ」というのはいかがでしょうか?