英虞湾の養殖真珠に故人の遺骨を原料にしたセラミック核を用いて作られた、日本初、おそらく世界でも例を見ないであろう手元供養品「いのりのしんじゅ」。今回は海洋散骨事業者で「いのりのしんじゅ」の製造販売メーカーでもある有限会社アッシュオン(愛知県名古屋市)のアトリエ&ラボにおじゃまして、田中社長にその魅力についてお話を聞かせていただきました。
真珠養殖について全く知識がなかった私にも良く分かった真珠養殖の難しさ、そして他の手元供養品との考え方の違い、散骨して海に還った故人の遺骨の一部が真珠となって遺族のもとに帰ってくるというストーリーを創り出す手元供養品への思いをレポートします。
「天然の真珠なんてほとんどないんです。」真珠についての知識をほとんど持ち合わせていない私にとって、田中社長の言葉に耳を疑いました。真珠は自然界で偶然、砂などの異物、または外套膜(貝殻の内側にある膜)外側上皮が組織内に入ることがきっかけでできるもので、二枚貝であれば真珠を作る可能性があります。ただ一般的に私たちが真珠(パール)と呼んでいるアコヤ貝については、天然の真珠を作り出す確率は1,000分の1程度と言われています。
その希少性から古来より「月のしずく」「人魚の涙」とも呼ばれ、生物がうみ出す自然界唯一の宝石として珍重されてきた真珠を人工的に作り出したものが現在の養殖真珠になります。ただその養殖真珠ですら商品となり得る品質のものを作り出すのは、たった5%の養殖貝なのです。その真珠養殖の難しさと「いのりのしんじゅ」について詳しく聞いてみたいと思います。
毎年初夏に核入れというアコヤ貝の外套膜(貝紐のような部分)を取り出して遺骨を含んだセラミック核を仕込む作業を行ない、その年の12月に浜上げして翌年1月頃に商品として納品する「いのりのしんじゅ」は、1件の受注につき90個のアコヤ貝に核入れをおこないます。ただし、核入れ(手術)に耐えられない貝や、核を吐き出してしまう貝などもあり、きれいな真珠となるのはわずか3個~10個程度になります。半分以上が真珠を作らず、残り半分のほとんどは形が整った真珠になりません。その厳しい生産環境の中で出来上がった真珠はまさに故人を思う遺族の「祈り」がこもったものなのです。
核入れは貝の外科手術のようなもので、高い技術が必要です。また、核入れできるアコヤ貝(母貝)を育てるには、まず稚貝の育成から始まり2年ほどかかります。そして母貝を核入れしやすいように冬眠状態して、貝の口を開く仕立(したて)作業を経て核入れを行ないます。つまり「いのりのしんじゅ」は、3年以上の年月をかけて英虞湾とアコヤ貝、そして故人の遺骨が出逢って生まれた真珠なのです。
専門家の指導のもと、ご家族が核入れに参加することもできます(オプション)。「行ってらっしゃい」という思いを込めて行う核入れは、故人と静かに対話する貴重な時間になります。
核入れをしたアコヤ貝は綺麗に並べられて手術(核入れ)の傷が癒えるまで2~3週間程度波の穏やかな場所で養生して、その後沖合で真珠を育てていきます。その間も海水温や寄生虫、海藻などに気を配りながら珠貝(真珠を持った貝)へと育てていきます。
「いのりのしんじゅは宝飾品ではないんです。だから綺麗な真珠以外もお渡ししています。」と田中社長が写真の箱を見せてくれました。そこにはいろいろな形状の真珠が並べられていました。核のほとんどが見えてしまっているもの、真珠層がいびつで丸くなっていないもの、それらは宝飾品で考えると間違いなく不良品であり、お客様の手には渡らないものです。しかし「いのりのしんじゅ」は、故人の遺骨から作られた核で創り出された真珠です。その一つひとつに故人との思い出があり、故人そのものなのです。
きっと手にしたご遺族は真珠一つひとつに故人との思い出を感じて「お帰りなさい。」という気持ちになるはずです。
「いのりのしんじゅ」はブルーの円いガラス壷に入れて届けられますが、別売りのガラスケースに入れたり、アクセサリーにしたりもできるので、ご位牌、お墓の代わりやいつでも身に着けていられる供養品としてご利用いただけます。
志摩海葬というブランドで海洋散骨をおこなっているアッシュオン。他所から来た業者が勝手に散骨をしていると思われないように、志摩事業所を設置しました。海洋散骨を行う上で、後に地元に根付いた活動をしていくには本拠地を置くことはとても重要な事であり、地元との折衝等の話し合いの場に立つために必要なことと考えたからです。
「いのりのしんじゅ」の生産を実現するまでにはいろいろな問題があったようです。まず田中社長自身が真珠養殖をはじめから学ばなければならす、遺骨を含んだ核も生産に理解を得られた真珠養殖業者にアドバイスをもらいながら試行錯誤で作り上げました。作り上げた核が貝に拒否されず本当に真珠ができるのか?年1回限りのチャンスに賭けて、失敗すればまた1年後という厳しい環境でした。
もともとアッシュオンは名古屋に本社を置く会社ですが、片道2時間以上かかる名古屋と志摩を何度も往復して、核入れ後も提携養殖業者のもとに通い、一緒に船に乗って作業を手伝いながら真珠養殖を学びました。
英虞湾の真珠養殖は斜陽化していて、養殖業者の数も年々減っているという状況のなか「いのりのしんじゅ」の生産を始めた田中社長は、この状況に危機感を強めています。養殖業者が無くなってしまえば、「いのりのしんじゅ」の生産はできません。仮に自身で養殖業を始めて養殖場や道具を揃えたとしても、海や貝と会話できなければ真珠を産ませることはできないのです。
「いのりのしんじゅ」は宝飾品の真珠のように色や形にこだわって利益を追求する商品ではなく、海に還った故人が英虞湾、伊勢志摩の人たちとともに厳しい環境を乗り越えて創り上げたものなのです。その価値を高めるため、そして英虞湾の真珠養殖業が上向くよう少しでも伊勢志摩の活性に役立てばと思い、伊勢志摩で仕事をしている者の恩返しの意味も込めて、田中社長は海洋散骨を行なうご家族に伊勢志摩の素晴らしさを伝えて、また足を運んでもらえるよう努力しています。
刑法第190条に「葬送の目的として、相当の節度をもって行われる限り、遺骨遺棄罪にはあたらない」と記載されていることから、海へ散骨する際は遺骨をそれと分からないように周りに配慮する必要があります。サラサラのパウダー状にする散骨業者も多いですが、現在は2㎜以下の大きさにすると決めている業者が一般的です。海に撒いた遺骨が自然界の偶然で天然の真珠を創り出す、ということもあるかも知れませんが、それはいくつもの偶然が重なった奇跡であり、仮にそようなものができていたとしても遺族の手元に渡ることはありません。
「いのりのしんじゅ」は自然界の偶然に真珠養殖という人の力を少しだけ付け加えてできた奇跡の宝石なのです。天然のアコヤブルーに輝く真珠となって海から帰ってきた大切な人は、きっと遺族の心を癒し、故人との思い出をいつまでも鮮やかに残し続けることでしょう。
田中社長にいろいろお話をうかがって感じたことは、社長自身が志摩の海と自然、そこで暮らす人たちのことをを大切に思っているということでした。「いのりのしんじゅ」の生産過程を考えると長い時間と手間がかかり、自然現象によるリスクも大きく、たとえ今より高い金額で提供しても事業としては採算に合わないように思えます。それでもこの事業を始めた田中社長には「遺骨のダイヤモンドのように100%人工的に作られたものでなく、海(自然)の力とともに作られた手元供養品があっても良いのではないか。それが人が自然に還る海洋散骨の供養品にふさわしいのではないか。」という強い思いがあるのだと私は感じました。
~商品情報~
商品名 :いのりのしんじゅ
価 格 :495,000円(税込)※お渡し出来る珠は 9~18珠前後になります。
※別途費用で核製作・核入れ・浜上げの立ち合いが可能です。
※オプションで手元墓、アクセサリー、手元供養台、手元供養仏壇などをご用意しています。
~取扱店舗情報~
店舗名 :有限会社アッシュオン 志摩営業所
所在地 :三重県志摩市大王町波切271 ラウムズ大王崎803号室
TEL :0120-920-781
MAIL:info@inorinoshinju.com
※ご来店の際はご予約をお願いします。