雨の翌日、どんよりとした曇り空の東京湾。今回は2年ぶりのレポートで、自社船を乗りかえた海洋散骨の万寿の個別散骨に同乗させていただきました。以前と変わらない伊藤船長のアットホームな感じと気配りが行き届いた対応が心地よい散骨・海洋葬でした。
後方(リア)デッキが広く、ガンネル(船縁)に高さがある船。遺族の人数が多い散骨でもリアデッキに集まることができて、お年寄りや小さな子どもが散骨する時にもガンネル(船縁)に高さがあるので安心。安全に散骨できる船を探して今回の「ATLANTAⅤ」への乗換を決めた伊藤船長。確かに以前の「AUSTIN」より船内もリアデッキも広くなっています。
中古艇への乗りかえなので新しい船ではありませんが、普段船に乗りなれない方がほとんどの海洋散骨で、乗船するご家族のことを思った伊藤船長の船選びには感心しました。
集合場所の越中島乗船場は駅からのアクセスも良い公共桟橋です。豊洲運河の入り口にあり、ゲートブリッジ沖のへ向かうには波も穏やかでちょうど良い出発場所です。東京でこの桟橋を使用している散骨業者は多いようです。
本日乗船のご家族と、約束の時間にこの桟橋で待ち合わせです。
越中島桟橋から乗船したTさんご家族、施主の奥様、2人のお嬢様のご家族それぞれ4名、合計9名の乗船になりました。小さい子どもが4名、はじめて乗るクルーザーに興味津々です。豊洲運河をゆっくりと進む船、スタッフの松本さんが全員が揃った船室で船内の案内と注意事項、スケジュールの説明をします。
ご家族乗船時に乗り物酔いしやすいお子さんがどの子なのかを確認する松本さん。気配りを絶やしません。キャビン(船内)ではなく外のデッキへ案内して、伊藤船長が操船する2Fデッキ(フライブリッジ)にも子どもたちを案内します。
「もう1段ありますからね。」と声をかけられながらフライブリッジに上がったり降りてきたリ、じっとしないことも乗り物酔いを抑える方法です。伊藤船長も船内の様子を見まわしながら散骨ポイントのゲートブリッジ沖まで船をすすめます。
「目をつぶらずに黙祷してください。」散骨式の中で松本さんがご家族にこう声をかけます。波の穏やかなゲートブリッジ沖とはいえ、小さい子どもにとっては足元がおぼつかない船の上です。黙祷とは本来、声を立てずに祈りをささげることを意味するのですが、目をつぶる行為が一般的です。乗船されたご家族の安全を考えた「目をつぶらない黙祷」。良い心配りですね。
散骨式が始まってから空が明るくなってきました。にぎやかに、そして時にしめやかに。散骨式が終了する頃には雨上がりの東京湾が故人を送る花びらと一緒にキラキラと輝いていました。たくさんの家族の笑顔と涙に囲まれて、故人は海に還っていきました。
散骨が終わって、いつもなら東京湾内をクルージングするのですが、今日はそのまま船を越中島桟橋に向かい操船する伊藤船長。女の子が一人船に酔い始めたようです。伊藤船長は状況をみて早目の帰航を判断しました。チャータだからできる適切な判断です。実は事前に聞いていた乗り物酔いしやすいお子さんはこの子ではなく別の男の子だったのです。
乗り物酔いがひどくならないように揺れを抑えて船を進める伊藤船長。デッキの上から9名のご家族の様子をしっかり見ていたようです。少しの変化も見逃しませんでした。
無事船は越中島桟橋に戻ってきました。船に酔いかけていた女の子も元気になっています。最後は桟橋で船をバックに9人揃って写真撮影。万寿では撮影した写真はSDカードの状態でご家族にお渡ししているそうです。なるほど、確かに写真のアルバムやCDよりも扱いやすく、ご家族でデータが共有しやすいかも知れません。
前回の取材でも同じでしたが、飾らず自然な感じで行なわれる万寿の海洋散骨にはどこか下町の人情味のような温かさを感じます。伊藤船長はどちらかというと口数が少ないタイプですが、今回Tさんが「伊藤さん、伊藤さん」とまるで昔からの知り合いに話しかけるようにしていたのがとても印象的でした。
インターネットからの申し込みで、今日お会いする前にご遺骨の引取りに伺って話をしただけ、と話す伊藤さん。きっとその1回の時間でTさんから信頼されることができたのでしょう。心に残る散骨・海洋葬は金額でも豪華な船でもなく、そこに携わる「人」が作るものなのだと、今回の取材を通じてあらためて感じました。