久しぶりに乗船取材の日程が決まると、こちらの案内が送られてきました。集合場所の案内、当日の服装、持ち物、出航判断について、分かりやすく説明されています。お客様と同じように対応してくれる心遣いが嬉しいです。今回は静岡県内に7店舗を展開する「お仏壇のやまき」が行う合同・代行散骨に乗船してきました。
お仏壇のやまきは2019年から「やまきの海洋散骨」というサービス名でおもに沼津港・焼津港より自社船運航で海洋散骨を行なっています。今日は合同散骨と代行委託散骨の施行で沼津港から出発します。集合場所は沼津港の奥にあるマリーナ事務所内のオーナーズルーム。移動手段は車か沼津駅から沼津港行きのバスに乗り、そこから徒歩で約7分。マリーナへ向かう途中「立入禁止」の看板がありますが、案内に書いてある通り、そのまま進みます。
駐車場は十分に余裕があるので、車が複数台でもOK。到着したらやまきのスタッフが出迎えてくれます。12名が着席できるマリーナのオーナーズルームで事前の説明とメッセージカードの記入などを行います。現地についたらすぐ乗船というのが通例の海洋散骨で、出発前にご家族だけでゆっくりと過ごせる場所があるのは有難いです。
船が停泊している桟橋はマリーナ事務所のすぐ近くにあります。今回乗船するのはやまきが所有する2艇の散骨船のうち、コンパクトな定員9名のブルーエンジェルⅡ号です。船までは段差も少ない傾斜の緩いスロープになっていて、足元が不安な方も安心です。
桟橋では船長・副船長が出港の準備をしています。やまきの海洋散骨では船長・副船長と運航担当の3名が必ず乗船します。船に慣れていない方も安心して乗船できます。後方デッキから段差をまたいで乗船するので、スタッフが慎重に案内します。
驚いたのは後方デッキの架装でした。あまり見慣れない船だと思っていたら、海洋散骨用に柵を取り付けてあったのです。通常、クルーザーは釣りやマリンスポーツなどのレジャーで使用することが多いので、ブルワーク(後方デッキの柵)が低いのですが、お年寄りや小さなお子様には心もとない感じがします。そこに柵を架装することで、安全性を高くしていました。また、柵の間から手が伸ばせるので、より海面の近くで散骨することができます。
船内には祭壇が作られていて、横には作成中の花かごが置かれています。LEDのキャンドルもいい雰囲気です。ライフジャケットも人数分用意されていて、出港の準備が着々と進んでいます。
船はゆっくりと桟橋を離れ、徐々に加速していきます。船長いわく今日の駿河湾はいつもより穏やかだという話でしたが、東京湾と比べると少し波があるかな、という感じの船の揺れでした。
右手に富士山、左手に伊豆半島を眺めながら船はどんどん沖へ進んでいきます。周りに船影もなく、富士山と海を独り占めしている感覚です。港を出てから20分ほどで船は徐々に減速し、散骨ポイントの大瀬崎(おせざき)沖に到着しました。
散骨ポイントに到着しても船はエンジンを切りません。波のある駿河湾で船の揺れを最小限に抑えて散骨してもらうための工夫です。風も強くなってきたので、お花や遺骨は船外に置かず、必要な時に移動させます。地域・海域によってそれぞれのやり方があるのですね。船長が風と波を読み、副船長が船を微調整しながら操船します。
今回はご家族の様子を撮影することは叶いませんでしたが、終始和やかな雰囲気でセレモニーが進行しました。運航担当の植野さんのフレンドリーな対応がご家族を笑顔にして、会話も弾んでいました。下船後のインタビューで教えてもらったのですが、やまきの海洋散骨は受付は店舗スタッフが行い、当日の運航を植野さんが担当しているとのことでしたが、初対面とは思えないほどご家族と距離が近いことに驚きました。
ご家族による散骨と散華(献花)が終わると、船が旋回し始めます。黙祷とともに船長が号鍾を5回鳴らします。いよいよお別れの時間です。それぞれのご家族が大切な故人へ思いを馳せます。そして最後は富士山をバックに船上で写真撮影です。副船長が船の向きをしっかりと調整していました。
合同乗船散骨が終了後、船室でご家族にお待ちいただいている時間で代行委託散骨を行ないます。植野さんが1柱ずつ丁寧に海へ遺骨を還し、散華で供養します。その様子を船長がカメラに記録していました。風の向きを考慮して、乗船されないご家族にも雰囲気が伝わるよう、ロケーションに気を配っていることが分かります。
代行委託散骨を終えると、船は港へ戻ります。ご家族は船室内、後方デッキ、フライブリッジ(2階部分)でそれぞれに駿河湾の景色を楽しんでいました。だんだんと遠くなる大瀬崎をじっと見つめる方もいらっしゃいました。
雲間から注ぐ日差しが清々しく見えます。みなさん心のなかでひとつの区切りがついたのでしょうか、笑顔で話をしています。
船はそのまま帰港するのではなく、沼津港のシンボル「びゅうお」(大型展望水門)を潜り沼津港内へ向かいます。船でしか体験できない景色です。遊覧船やたくさんの人でにぎわう沼津港を後にして、船はゆっくりと桟橋へ戻りました。
到着後、桟橋で船長・副船長がご家族を見送り、運航担当の植野さんが駐車場まで見送りに向かいました。最後まで終始和やかで、ご家族をスタッフ全員でもてなしている雰囲気がとても心地よかったです。
ご家族を見送ったあと、ブルーエンジェルⅡ号をクレーンで陸揚してメンテナンスを行います。ご家族が帰られた後のスタッフのみなさんを観察(?)できるのは取材者の特権です。自社船だからといって荷物を置きっぱなしにせず、きれいに片付けて店舗に戻るチームワークの良さに感心しました。
やまきの海洋散骨は、美しい富士山と駿河湾のロケーションを活かし、和やかな雰囲気で行なわれるアットホームな海洋散骨でした。堅苦しい式は要らない、でもただ散骨するだけでは忍びない。そんな思いを持った方におすすめの散骨業者です。